はじめに
序章 ナルシスという宿命
(1)ナルシシズムは不幸のもと (2)ナルシスとは誰か (3)クンデラとナルシシズム (4)イメージの小説家 (5)小説が教えてくれること
第一部 ナルシスたちの物語
第一章 自己演出の挫折
(1)登場人物の挫折 (2)ステレオタイプな自己演出 (3)人生という「ドラマ」 (4)人間ナルシス
第二章 滑稽なナルシス
(1)『可笑しい愛』あるいは若者のナルシス的演劇性 (2)『冗談』あるいは未熟さゆえの無知 (3)『生は彼方に』あるいは元抒情詩人の自伝 (4)『別れのワルツ』あるいは傲慢ゆえの人間嫌い
第三章 苦しみのナルシス
(1)『笑いと忘却の書』あるいは自尊心を傷つけられた者の「リートスト」 (2)『存在の耐えられない軽さ』あるいはキッチュという美化の鏡 (3)『不滅』あるいは顔というエンブレム
第四章 諦観のナルシス
(1)『緩やかさ』あるいは自惚れ者の謙虚さ (2)『ほんとうの私』あるいは世界の周縁で生きること (3)『無知』あるいは悲しい自画像 (4)『無意味の祝祭』あるいはナルシスに降り注ぐ喜劇の優しい微光
第五章 凡庸さとの和解
(1)「主人公」の不在 (2)小説的主人公と運命 (3)クンデラの小説世界の美学とモラル
第二部 小説家とナルシシズム
第一章 語り手と作者の共犯関係
(1)ナルシシズムと全知の語り手 (2)語り手の権力 (3)作者の戦略 (4)クンデラのナルシシズム (5)小説家の「私」と小説
第二章 ポストモダン的自意識
(1)クンデラとポストモダン文学 (2)現代における十八世紀的な語りの実践 (3)語り手を介した作者の自己意識 (4)完結した一つの物語への抵抗 (5)クンデラと非ポストモダン
第三章 自己についてのエクリチュール
(1)過去の自己批判 (2)現在の自己正当化 (3)小説家の自画像 (4)自伝に対する抵抗 (5)自伝的フィクションあるいはオートフィクションの可能性
第四章 越境作家のアイデンティティ
(1)クンデラの越境 (2)世界文学と「中欧」の概念 (3)チェコの平民主義的伝統 (4)フランスにおける現代社会批判
第五章 「私」の唯一性を求めて
(1)想像しがたいもの (2)よく生きること
参考文献
おわりに
ローベル柊子(ローベル・シュウコ)
1981年東京生まれ。2011年東京大学大学院博士課程人文社会系研究科単位取得退学。2013年ストラスブール大学比較文学研究科博士課程修了。博士(比較文学)。2012年より静岡大学情報学部専任講師、准教授を経て、2018年より東洋大学経済学部准教授。専攻はフランス文学、比較文学、ヨーロッパ文学・文化。主な論文に「ミラン・クンデラとチェコ文化の平民的伝統」『スラヴ学論集』(第17号、2014年)、「ミラン・クンデラにおける越境とローカル性」『フランス語フランス文学研究』(第106号、2015年)がある。