2011 . 05 . 15 up
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*分与地(надел)――1861年3月5日に公布された農奴解放令(2200万の農奴を解放した)によれば、農奴は人格的に解放されるだけでなく、土地を付けて解放されなくてはならなかった。しかし人格的には無償で解放されても、その分与地に対しては支払いの義務が伴った。そしてそれは(一部西部諸県を除いて)農民個人もしくは個々の農家に分与されるのではなく、まとめて共同体に引き渡されたので、支払い自体が共同体の連帯責任とされた。スモレンスク県ドロゴブーシ郡スレドヴォ村の貧しい農家に生まれたエフロシーニヤ・パーヴロヴナは早くに父を亡くして、食い減らしのために16のときにお金持ちの農家(「馬を一頭持っていました」)に嫁がされた(「エフロシーニヤ・パーヴロヴナの回想(聞き書き)」から)。
*1世界史およびロシア史の教科書。歴史家ドミートリイ・イロヴァーイスキイ(1832-1921)の教科書は、帝国時代に広く使用された。
*2帝政ロシア・ヨーロッパなどの中学校。ロシア語ではギムナージヤ。古典中学校(ギリシャ語・ラテン語の学習を重視し、1871年から8年制)と実科中学校(古典語のかわりに実科を主とし、数学・物理・生物・機械技術を重視した)の2種があった。プリーシヴィンはエレーツのギムナージヤを退学になったので、国内の大学への進学は許されず、やむなく地方の実科中学を転々とした。ついでに言えば、前出の作家ソコロフ=ミキトーフの場合は、実科中学を退学させられたあと、農業学校に入り直しているが、結局断念し、遠洋航路の船員になった。
*フョードル・イズマーイロヴィチ・ローヂチェフ(1853-1932)は立憲民主党員(カデット)で、指導者のひとり。イグナートフ家はプリーシヴィンの母方の、商才に長けた旧教徒(スタロヴェールィ)の一族。
*内なるドイツ人(внутренний немец)。大戦中にロシア帝国内に留まったドイツ人たちを指す言葉だが、政治的にも心理的にももっと複雑なニュアンスを含んでいる。ドイツ人でないが一貫してドイツとの戦争に反対したラスプーチン、ドイツ出身の皇后アレクサンドラ(よく「あのドイツ女」などと陰口を叩かれた)なども〈内なるドイツ人(またはスパイ)〉と見なされた。
内部のドイツ人。彼らは初めのうちこそ前線へ出たが、そのうちドイツ系の姓を持つ連中に、やがて商人たちに立ち交じって、最後にはこんなことを言われていた――おまえは考えたんだ、内部のドイツ人なんかここにはいない、と。ところがそいつはおまえと同じテーブルに就いて同じ食器で飲み食いしてるじゃないか。もうばれてんだよ、ドイツ野郎は出て行くべきなんだ。
子どものころのわが家、部屋の配置など、驚くほど鮮明に思い出した――食堂も、二階へ通じていた階段のあたりも、ホールも。が、客間のところで疑問が生じた。客間は『戦争と平和』のあれかな、いや『アンナ・カレーニナ』に描かれているようなやつだったかな、それともオネーギンが愛を告白するタチヤーナの部屋? ああ肱掛椅子がある……あの肘掛椅子で愛の告白があったのだが、それは誰だったろう? サーシャとナターシャか? ということは、それはわが家の客間であり、そこで自分はわが家の客間にヒーローたちを招じ入れて、ともかくいっぱい長編小説(ロマーン)を読んだということだ。ワルシャワが占領されたとき、人びとはあれこれ噂をし合い、自分も一度ならず問いただされたことがあった。――ワルシャワは占領されたが、どうやらわが軍が取り返したようだね、ほんとかい? コヴナのときとそっくり同じ言い方である――再度わが軍が奪還したかのように。リヴォーフでも、ペレムィシのときも。なにやら聖書〔イエス〕の、三日目の復活といった感じ。
90歳の古老の話には目撃者の鮮烈さがあった。フランス人をどうおびき出し、そのあとどう追い出したか。戦争〔1812年の対ナポレオン戦争〕はナロードの記憶にはっきりと残っていた。もっとも、古老たちだってまだほんの子どもにすぎなかったわけだが。フランス人はおびき出されたのだ。そして今、ドイツ人も〈同じ手で〉おびき出されている、ようだ。戦争――それはモーゼの五戒*の理想へ人びとを回帰させること。どうやらわれわれはとうの昔にそれら戒めを、その子どもじみた中身を越えて越えてまた越えて、三たび四たび、いや七たびも《汝、盗むなかれ》はなお未解決のままである。戦争は五戒からさえ無限に遠ざかった段階、すなわち《殺すなかれ》――これはとてもとても達しがたい理想だ――への回帰を意味している。そのかわり生きものの世界の道徳である、たとえば、上司への敬意、忠実、友情は戻ってくる。搾りたての牛乳の表面に固まったクリームのように、最良の相伝のもの(父祖伝来のもの)は、軍とともに現状維持し、銃後はみな戒の理想の叶わぬ夢の中である。
*旧約聖書・出エジプト記20章13〜17節。13、殺してはならない。14、姦淫してはならない。15、盗んではならない。16、隣人に関して偽証してはならない。17、隣人の家を欲してはならない。隣人の妻、男女の奴隷、牛、驢馬など――隣人のものを一切欲してはならない。
幼年時代。エレーツの変人たち。彼らには事業だのエレーツ市だのではカヴァーできない何か過剰なところがある。それで彼らは一風も二風も変わっている――コスチュームしかり食物しかり。
8月14日の新聞を受け取る。ドイツの宰相ベートマン=ホルヴェーク*1のセンチメンタリズム。ドイツの榴散弾がロシア側の塹壕を粉砕する(ロイド=ジョージ*2)。ユダヤ人居留地、官営ヴォトカ専売所〔通称カジョーンカ〕、言論の自由、所得税。ロシア軍をピンスクの沼地に追い込もうとしている。ロシアは危機的状況にある。*1開戦当初(1909〜1917)の帝国宰相、プロイセン首相。
*2ロイド=ジョージ(1863-1945)はイギリスの政治家。1916年に連合内閣を組織、戦争完遂に努力した。
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