大家の筆は冴え、物語は推理小説並みの面白さや恋愛小説の要素も盛り込みつつ、いよいよ佳境を迎える。隠れフス派への弾圧が最高潮に達した18世紀前半の宗教・文化・社会の渾然一体となった状況が、立場を描き分けられた登場人物たちの交錯により、詳細に描写されていく。
アロイス・イラーセク(Alois Jirásek)
1851年にチェコ東北部のフロノフに生まれ、プラハ・カレル大学で歴史を学ぶ。卒業後リトミシュルとプラハのギムナジウムで教師を務めながら多くの歴史小説を執筆し、チェコ民族の栄光と受難の歴史を描いて、この分野の第一人者となり、何度もノーベル文学賞の候補にもなった。後年病(聴覚と腎臓)が悪化して、1919年に未完のまま『フス派王』を出した後、筆を絶って1930年にプラハで没したが、チェコスロヴァキア建国とその後の発展に立ち会った。
浦井 康男(うらい・やすお)
1947年に静岡県熱海市に生まれる。京都大学理学部に入学後、文学部言語学科に転部。1976年に同博士課程を単位取得退学。1977年に福井大学教育学部、1997年に北海道大学文学研究科に移籍。2011年3月に北海道大学を停年退職。アロイス・イラーセク著、浦井康男訳註『チェコの伝説と歴史』(北海道大学出版会、2011年)で第48回日本翻訳文化賞受賞。